第44回:分岐の正体とは

近くにいるはずのハンター竜田となかなか遭遇できないじぇーんとクリムゾン真鍋。なにかよからぬ気配を感じたクリムゾン真鍋はじぇーんをF-LABOに戻らせ、代わりにクルムシ軍曹を招聘することにする。

クル:おはようございます、クリムゾン真鍋。呼ばれたので早速来ました。

真鍋:相変わらず早いな、どうやってきた。まだ明るい時間なんだが。

クル:芦屋駅から舞子駅までJRで移動しました。そうして瀬戸大橋の下のバス停から高速バスに乗ってきたので、すぐ着きました。クリムゾン真鍋の出身地の松山ほど、ここ高松は遠くありません。

真鍋:しかし飛行機で来ればもっと早いだろう、なぜバスで来るんだ。

クル:それは僕が隠れハルキストだからです。海辺のカフカの序盤で主人公の少年が夜行バスで高松に来る場面がありますが、それをやってみたかったのが一番の理由です。

海辺のカフカとは、村上春樹の代表作のひとつである。夜行バス・高松というあまり題材に取り上げられることのなかったテーマに対して日を当てた作品である。「出典:近代芸無辞典より」

真鍋:クエスト達成できてよかったな。で、話はじぇーんから聞いていると思うが、ハンター竜田と会おうとしてお遍路を逆回りにきているんだが不思議な力が働いてどうしてもハンター竜田と会えない、なにか理由があるんだろうか。

クル:八熊伝にヒントらしきものが書いてありました。どうやら、分岐とツリーとマージが関係しているような気がします。

真鍋:分岐はわかる、以前に沖縄の北端の灯台でハンターが行方不明になった時、本来は私が異世界に行くはずだったが、何らかの事情でハンターが行くことになった。あれが多分分岐だったんだろう。

クル:それが事実なら、間違いなくそこが分岐だと思います。そこで新しいツリーができたことになります。

真鍋:ツリーってなんだ、クリスマスにまだ早いぞ。

クル:僕は、時々プログラムをするのですが、途中の履歴を置いておくと、間違って修正したときもスムーズにどの局面にでも戻ることできます。GITというツールを使っていますが、大変メジャーなツールです。

Gitとは、ソース管理のシステムである。初心者はギットと読むことを思えられず、ジットと読んでしまう場合が多々ある。「出典:近代芸無辞典より」

真鍋:GITは吾輩も当然知っているのである。

クル:プログラムをする人ならそれは同然のスキルですね。で、大事な変更を行う前にはコミットして、コメントをつけて、サーバーにおいてあるリポジトリを更新するとそこで世界が一度フィックスできます。

真鍋:そうだっだったな、そんな機能だ。

クル:ここで、プログラムが進行して、そこで間違った方向に進んだとすると、別の方向も試してみたくなる、こんな時に新しいツリーを作るのが上級プログラマのテクニックです。

真鍋:吾輩は新しいツリーを作ったことがないから下級プログラマーかもしれん。

クル:卑屈にならなくても大丈夫です。過去の履歴に戻った時にもツリーはできることがあります。一人で作業している場合は、ツリーができても複数のツリーの中から一番良いと思われるものを残し、ほかのツリーを削除すると問題ありません。ただ、複数人がかかわって別々に行動をするときには、時として矛盾が生じる場合があります。

真鍋:そうだな、同じファイルを、吾輩とじぇーんが修正したとき、どちらのファイルが正しいのか判断ができないはずだ。

クル:同じ現象に結果が二つできた状態を事象がコンフリクトしたといいます。コンフリクトするとそこから前に進めなくなるので、この状態を解消する必要があります。

真鍋:コンフリクトは恐ろしいものなんだな、前に進めなくなる、進行不能状態だな。

クル:そうです。クリムゾン真鍋がハンター竜田と会えなくて四国から帰ることができない状態もコンフリクトの一種と考えられます。

真鍋:そうか、いまの状況がコンフリクトなんだな、でこれを解消するにはどうすればいいんだ。

クル:話し合いで、どちらかが譲歩するか、あるいは、戦ってどちらかが消えるしかありません。

真鍋:それは、また面倒な話だな、要するに吾輩はハンター竜田と戦ってどちらかが消えなければならない運命なわけだ。

クル:それがマージです。話し合って妥協点を見出すか、相手を消し去るか、このどちらしかありません。

真鍋:消えた相手はどうなるんだろう、存在そのものが無くなってそこで終わりなのか。

クル:八熊伝にはその部分が簡単に書いてあります。消える運命のものはそれに逆らうすべはない、だが消えたときに残る記憶はそこでいつか日の光を浴びる日までじっと待機している。

真鍋:要するに、殺しあおうが、話し合おうが、消えたツリーは何らかの形で残るんだな、いったいどこに残るんだろう。

クル:その部分については、八熊伝にも何も書かれていません。

真鍋:大体わかった、マージを目指して吾輩はハンターを探すことにする。

クル:わかりました、私も引き続きもっと情報がないか調べてみます。

真鍋:しかし面倒なことになってきたな、とりあえずホテルに帰って今後の対策でも考えるとするか。

****************

ホテルで、ビールを飲みながらくつろぐ、クリムゾン真鍋。つまみはいつもの、エビみりんせんべい。

真鍋:あれ、エビみりんせんべいが無くなった。じぇーん、エビみりんせんべいを買ってきてくれるか。

返事がない・・・・。

真鍋:そういえばじぇーんは先にF-LABOに帰したんだったな。エビみりんせんべいを買うためにわざわざ呼びつけるのもアレだし、しかたがない、自分で買いに行くか。

一人でエビみりんせんべいを買いに行くクリムゾン真鍋。

真鍋:しかし、このコンビニにもない、どうして香川県のコンビニにはエビみりんせんべいがないんだ。これも讃岐うどんの祟りか何かな。

独り言をブツブツ言いながら徘徊する不審者クリムゾン真鍋。

真鍋:おや、こんなところにナイトショップ石鎚が。たしか20世紀にできたコンビニの走りみたいな24時間やっているお店だったな。

謎の男:これで全部買い占めた、もうエビみりんせんべいは一つも残っていないはずだ。

真鍋:おや、黒服面のにいちゃんがそんなにエビみりんせんべいを買い占めたらだめじゃないか、10個買うにしても、一つくらいは残しておくのは人としての節度というものだろう。ということで、とっちめてやろう。そこにあるお地蔵さんの陰に隠れて突然現れてびっくりさせたら、一つくらいエビみりんせんべいを落として逃げるかもしれない。

謎の男:エビみりんは全部買い占めた、これで一安心。向こう1週間は大丈夫やんけ。

真鍋:ええもん、見せたろか~~~~。

謎の男:なんや、よく見ればクリムゾン真鍋じゃないか、なんでこんなところをうろうろしているんや。クリムゾン真鍋は沖縄の北の灯台で行方不明になったはずやんけ、どうしてここにいるやんけ。

真鍋:おお、なんとまあ、探していたハンター竜田さんではありませんか。北の灯台から消えたのは君じゃないか、それがこんな所でなにをしているんだ。

竜田:ワイは好物のエビみりんせんべいを買いに来ただけやんけ、では帰るやんけ。

真鍋:なんかややこしそうだから吾輩も帰るとしよう、そのまえにせっかくだから写真を撮っておこう。

スマホを取り出して、さっと写真をとるクリムゾン真鍋。覆面をかぶったままのハンター竜田が走り去る。そこに人影が現れる。

クル:大変です、クリムゾン真鍋、謎が解けました。ハンターと会ってはいけません。強制マージが起きて酷いことになります。

真鍋:おやまあ、その声はクルムシ軍曹じゃないか。なにを血相変えて走ってきてるんだ。それに、ハンターとはもう会ったよ、ほれ、さっきまでそこに立っていた覆面男がハンターだ、しゃべり方でわかる。

クル:手遅れでしたか、それは残念。どうやら避けられない運命ですね。コンフリクトが始まってしまいました。

真鍋:何がわかったんだ、説明してくれ。

クル:八熊伝の外伝を発見したのでそれを読んでみました。そうするとマージの期限は24時間。コンフリクトが起きた瞬間から24時間以内にどちらかがマージを実施しなければなりません。要するに、片方が存在しなければもう片方は何事もなかったかのように進行します。

真鍋:手遅れだな、今コンフリクトが起きたから、24時間はもうすぐだ、それまでにハンターと決着をつけなければならないということだな。

クル:そうです、そうしないと強制マージが起きます。無理やりツリーを結合する不幸なイベントです。

真鍋:なんで、そんなことになったんだ。接触しなくてもいいはずだったのに。

クル:想像するに、クリムゾン真鍋が地蔵の後ろに隠れたのが問題だと思います。郵便ポストもキャバクラの看板もあるのに、よりによって地蔵の陰に隠れるとは…。

真鍋:そうか、地蔵が近くにあるからといって安易な行動をしてはいけないわけだ。

クル:ハンター竜田もコンフリクトを無意識に避けようとしていたはずです、ただ地蔵がトリガーとなってその流れが断ち切られた。

真鍋:それは不幸だな、吾輩はまだやるべきことがたくさん残っている、チョモランマ桐もまだまだ半人前だし、ニンジャクリムゾンのゲームも作らねばならん。ここはハンターに道を譲ってもらわないといけないな。ハンターはどこにいると思う、クルムシ軍曹。

クル:調べてみます、芦屋の自宅に戻って解析ツールを動かしてみます。

真鍋:リモートではできんのかい、いちいち現場まで戻るとは準備が悪いのでは。

クル:最近仕様が変わって、外からのリモートログインが厳しくなりました。レジストリをまだ変えてなかったので、多分22時間くらいで戻ってきます。

真鍋:仕方ないな、ではホテルで一人モノポリーでもやっておくよ。

翌日の夜8時、24時間のリミットまであと2時間。クルムシは本当に時間通りに帰ってくるのだろうか。

****************

真鍋:遅いな、なかなか時間がかかるんだな、夜の移動は。

クル:お待たせしました、やっと解析が終わりました。環境をノートパソコンに移して移動しながらAIで解析をして、少し前に結果が出ました。

真鍋:でハンターはどこにいる、解析結果では。

クル:多分、屋島にいると思います、獅子の霊巌という展望台あたりが怪しいです。マージは歴史的な戦場に発生することが多いそうです。というか、マージが起きやすい場所が古戦場になるわけですから、たぶん屋島にいると思います。

屋島とは、源氏と平家の戦場の一つである。島といいながら陸続きで移動できる。「出典:近代芸無辞典より」

真鍋:そうとなれば、さっそく屋島に出発だ。クルムシ軍曹も一緒に来てくれ。

****************

真鍋:どうやら、屋島の真ん中あたりについた。ここが獅子の霊巌だな、きれいな展望台だ。

クル:屋島は島といっても、島じゃなく陸続きで行けるから便利ですね。この先に、屋島名物の瓦投げがあるはずです、そこに行ってみましょう。

真鍋:どうやら、あそこで立っているのはハンターらしい、お~い、ハンター竜田、元気か。

竜田:やはり来たやんけ、ここで待ってたら来ると思ってたやんけ、ルールは把握した。ずれの正体は分岐だということ、ワイとクリムゾン真鍋の両方がこちらの世界にいるのは矛盾がある、どちらかがあちらの世界に行っているはずだから、こちらの世界にいるワイかクリムゾン真鍋はどちらかが消えなあかんやんけ。

真鍋:残念だが仕方ない、ちょうどここに瓦投げがある。これで勝負を決めようじゃないか。

竜田:了解やんけ。10枚ずつ投げてたくさん的に中ったほうが勝ちやんけ。

しかし、なかなか決着がつかない。そうこうしているうちに、2時間が経過、最初のコンフリクトが起こった時から24時間が過ぎる。

竜田:仕方がない、時間切れが近いやんけ。しかたないから、この互でお互いの頭を一発ずつ殴って、先に死んだほうが負けというルールに変えるやんけ。

真鍋:長い友人の君と殺しあうのは、気が進まない。ほかに方法はないのか。瓦の代わりにエビみりんせんべいを投げて勝負するとか。それなら頭殴っても軽傷で済む。

竜田:えびみりんは全部食ってしまった。代わりにイカみりんせんべいならあるやんけ。

クル:そろそろ、時間です。強制マージが起きる時間になります。タイムアップです。

突然、激しい息遣いとともに物影が近づいてくる。

真鍋:あれは、なんなんだ。

竜田:見たことない奴やんけ、危なそうな奴やんけ、はあはあ言ってるやんけ。

クル:あれは…、瀬戸内地方に伝わる伝説の生き物、牛鬼ですね。

牛鬼:強制執行の時間だ、どちらが残るのか決められなかったのか。

真鍋:残念ながら、どうやっても決められない。

牛鬼:ならば、わしが決めよう。スパークリングOXフラッシュ。

********************************

あたりに静寂が戻る。よろよろと起き上がるクリムゾン真鍋とクルムシ軍曹。

真鍋:いったい何が起こったんだ。

クル:どうやら、牛鬼はハンターを選んだみたいですね。ここにお札があります。

真鍋:おお、これは、まさにハンター竜田の顔写真。

クル:もしかしたら、昨日撮った写真、どうなってますかね。なにか変化があるかも、それがマージということです。

真鍋:なんと、ハンター竜田と一緒に撮った写真が、吾輩と地蔵が一緒に並んだ写真になっている。

クル:このお札を、地蔵に奉納しましょう。そうすればハンターも成仏するでしょう。

真鍋:放置するとどうなる。

クル:多分、牛鬼になってこの辺りに住み着いて人を食べることになるでしょう。八熊伝の外伝にそう書いていました。

真鍋:そりゃいかん、早く地蔵に奉納して成仏させよう。しかし、ハンター竜田とはウマが合った、また会いたいものだ。何か方法はないのか。

クル:会うだけなら、白くて長いものから飛び降りるとあちらの世界に一時的に移動できるはずです、これも八熊伝に記述があります。ただしあちらの世界では動物の体を借りないといけません。

真鍋:動物になったら、吾輩だとわからないだろ。

クル:動物の状態でハンター竜田と出会うと、そこでまたマージが起きる。向こうで出会うハンターは今回牛鬼にお札にされたハンターではなく、沖縄から白くて長いものから飛び降りてあちらの世界に行ったハンター竜田さんです。

真鍋:そうか、元の状況では会えないんだな、それは残念だ。まあ、どちらもハンターには変わりがないからどちらでもいいか。

クル:何らかの方法で、実体を持ったままクリムゾン真鍋があちらの世界に行くことができれば、また一緒に行動できるかもしれません。ごく一部の人間は二つの世界を行き来できるようですので。

真鍋:クロニン田村のことか。

クル:ほかにもいます、チェルシーとか、ゲーマー鹿山とか。

真鍋:コンバット越前もそうではないのか。

それはわかりません、あまりにも深い話なので…。

まずは、いま作っているニンジャクリムゾンのゲームを完成させなければならん、すべてはそれからだ。

こうして、ハンター竜田と会うためのお遍路の旅は終結した、しかしそれはクリムゾン真鍋にニンジャクリムゾンを早く完成させることというさらなるプレッシャーをかけることになる。負けるなクリムゾン真鍋、逃亡するなクリムゾン真鍋。